In the Mood for Love

In the Mood for Love

BTS『花樣年華』考察

『WINGS Short Film』を考察する

WINGS Short Film

ヘルマン・ヘッセ著『デミアン』の一部を参考にしてMVに取り入れていると記者会見でRMが話していたそうです。
BTSがこの『WINGS』で伝えたい主題と『デミアン』が一致していると話していたとのことなので、『デミアン』を理解することで『WINGS』を理解することが出来るのかなと思いました。
しかしこのデミアン、とてもむずかしいし本によって細かい所が違うので大体頭に入れておく感じで深入りしないようにします。

今回BTSが伝えたいテーマを主軸に頭に入れて韓国版と日本版のMVを真剣にめちゃくちゃ観たんですけど、まず、今回の主題を汲み取るために、日本版のMVは二の次にしました。

 

ヘルマン・ヘッセ著『デミアン』概要

デミアンの主人公シンクレールは、正しい両親のものと、同じく正しく生きている姉たちが暮らす家庭=清く美しく明るい世界に生きていました。自分もそう在るべきだという考えを持っていましたが、一方、家のすぐ外には悪いもの、汚いもので満たされている真逆の、相反した世界が隣り合っていることを知っていました。
あるとき、シンクレールは悪童・クローマーに気に入られようとし、林檎を盗んだという嘘を吐いたことにより、クローマーから金銭をせびられる事件が起きるという、自分が居る世界の反対の世界に自身が侵される事態に陥ります。

金銭をたかってくるクローマーに対し、シンクレールは金銭の用意が難しいことを伝えると、クローマーはしばらく猶予を与えるということと、口笛を吹いて知らせるのでそれまでに金銭を持ってくるように言ってきました。シンクレールは口笛を恐れます。
そんな中、転校してきた不思議な少年デミアンと出会います。彼は「額にカインのしるし」を持っていると言います。 シンクレールがクローマーからいじめを受けていると知ったデミアンは、シンクレールに善と悪が統合した世界の存在を教えます。

シンクレールはクリスチャンであるので、キリスト教が自分にとっての基準でした。しかし、デミアンが教えた善と悪が統合した世界、聖書のカインとアベルに描かれている教えとは別の解釈に惹かれます。

カインとアベルアダムとイヴが禁断の果実を食べてエデンの園を追放された後に生まれた兄弟。ある日2人は各々の収穫物をヤハウェに捧げたが、ヤハウェはカインの供物は無視した。嫉妬したカインはアベルを殺害する。ヤハウェアベルの行方を問われたカインは「知りません」と嘘をつくも殺害したことが判明する。カインはこの罪により、エデンの東に追放された。追放された土地の者たちに殺されることを恐れたカインに対し、ヤハウェはカインには誰にも殺されないように額に印をつけた。 デミアンの解釈カインは勇気や才智を持った気高き人、世の中の人よりも優れた人である。 そしてシンクレールは、善の世界に戻ろうとしたり、悪の世界に行こうとしたりなどしながら、自分自身がどうあるべきかを常に模索し、キリスト教の教えが導いてくれる受け身の考え方から、自分自身で考える方向に変わっていき、デミアンの言っていた「カインのしるし」になるべく自己実現を目指していきます。

成長していったシンクレールは高等中学へ進みます。その頃にはデミアンとは疎遠になっていました。 高等中学で、シンクレールは"悪い友達" と出会い、酒の味をはじめ、堕落し、本来経験するはずのなかった世界の住人になります。そしてそれを恐れ、再び両親のいる明るい世界に戻ります。 ある日、シンクレールは少女に一目惚れをし、その少女にダンテの『神曲』から「ベアトリーチェ」と名付けます。そしてベアトリーチェ肖像画を描き始めるのですが、どう描こうとしてもベアトリーチェに近づくことが出来ず、想像に任せて絵を描き始めると、その絵は少女ではなく少年の絵が描かれており、更にはその姿がなんとなく自分自身に似ていることに気付きます。

また、シンクレールはそれとは別に夢の中に出てきた鳥を描きます。その鳥は、シンクレールの家の門にある紋章である。その鳥の絵をデミアンに送ると、デミアンからの返事にこのようなことが書いてありました。

鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。 鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという。

そうしていくうちに、彼は善と悪のどちらも持ち合わせた神・アプラクサス(アブラクサスキリスト教にとっては悪魔と見なされる)を求めるようになります。

シンクレールはオルガン奏者・ピストリウスに出会います。ピストリウスはシンクレールに、「内なる魂が欲することは恐れてはならない」と言い、ジンクレール はピストリウスを師としてアプラクサスについて学びますが、従来の考え方を下敷きにするピストリウスにやがて限界を感じます。

成長したシンクレールはデミアンに再会し、デミアンの母・エヴァの会合に参加するようになります。エヴァはシンクレールに「シンクレールもひたいの印を持つ者で、デミアンは出会ったときからそのことを知っていた」と話します。そしてエヴァに自分が到達したい自己実現を確立した姿などを見出し、彼女を愛するようになります。

ロシアとの戦争が起こり、シンクレールは兵士として戦争に出向きます。そこで偶然にもデミアンに出会います。
デミアンは、これからは君が僕を必要としても会いに来られない。自分の中から出てくる言葉に耳を傾けろということと、エヴァから渡されていたのものを渡すと言ってシンクレールにキスをします。

最終的にシンクレールは、キリスト教から教わって得た価値観、デミアンエヴァから教わって得た価値観、途中で登場するピストリウスから教わって得た価値観を超えて、自分自身にしか考えることのできない価値観を得て、自分が「カインのしるし」を持つ者と自覚するに至りました。

 

WINGS Short Filmをどう見るか

  • 自分の殻を破って成長していく彼らを描きたいというBTSから提示されたテーマがあるので、表現したいことは最終的にはそのことであり、ディテールはデミアンになぞられているBTSは卵(自分の世界)を破り、アプラクサス(理想とする自分)に向かうハイタカ(成長しようとしている自分)を描こうとしている。
  • 主人公のシンクレールは、ベアトリーチェを通して自分自身を見ていた。
  • シンクレール、クローラーデミアン、ピストリウス、エヴァに当てはめることができる可能性がある。

#1 BEGIN(はじまり) ジョングク

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映像に出てくるポイント 

・口笛が聞こえる ・ベッドに眠っている
・燃えるピアノ、ハイタカの絵、車のブレーキ音と衝突音(ガラスが割れる音)の夢を見て魘されて起きる
・左目が潰れている絵を見る
・雷鳴が轟き、雨が降る
肖像画が現れる
・ピアノが燃える
・水の音が聞こえる
肖像画が燃える
・雨の中「ヒョン」と泣く
・鳥の羽ばたく音
・赤い空と黒い森の風景
・落とした絵が「アプラクサスに向かう鳥」の絵に変わり封筒に入れる
・自分の影に羽根が生える

2つ出てくる絵はユンギなのかな…THE NOTESでは特にユンギに懐いていたのでユンギかなーーー。肖像画を見て自己を自覚したりするシンクレールと共通してる気がします。 口笛は、クローラーが金銭をせびるときの合図でした。シンクレールは口笛に怯えていましたが、悪の世界が自分の日常にあるだとか、そういった意味もあるので…口笛が聞こえるということは、悪の世界の存在を示してるという意味もありそうです。

 

#2 LIE(嘘) ジミン

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映像に出てくるポイント
・森林の絵
・取調室のような場所にいるジミン
・ジョングクの卵の絵を見て知らないといったように笑う
・色調が反転する
・ジミンの卵の絵を見て知らないといったように笑う
・色調が反転する
・眠る
・病室に切り替わり、隣には空きベッド ・ホソクの卵の絵を見せると隣を見る
・薬が出てくる ・樹木園の看板が出てくる
・RUNのときのように枕を投げる
・逆さの雨
・ベッドがひとつになる
・ピアノが燃える
・林檎が出てくる
・バスタブに落ちるとベッドから起き上がる
・林檎を食べる
・森林の絵を見て少し笑う

「LIE」ということなので、取調室のような場所で卵の絵を見せられてはぐらかすような仕草をして色調が反転している描写から、シンクレールが悪の世界を本当は知っているけれども自分には関係のない世界と認識している冒頭に似ているなと感じました。その後、林檎を食べることで悪の世界に触れて、殻を破ったのかなと思います。

 

#3 STIGMA(汚名、聖痕) テヒョン

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映像に出てくるポイント
・アプラクサスのグラフィティを工具で傷つけている
・警察に捕まり取調室へ
・両親はいないと答える
・殴られているような描写
・目にEVAの絵が映る(#6)
・電話ボックスが現れる(#5)
・父と姉と3人で部屋にいる
・犬がやってきてじゃれる
・檻が上から降りてくる
・前髪を切るDangerのMV一部
・「電話をかけてもいいですか」

アプラクサスの絵を傷つけている所が気になっていて、自己を呼び起こそうとしているのか殺そうとしているか、判断が両極端になってしまいます。
テヒョンの場合、殴られている描写だったり心の傷に関するつらい描写が多いので後者になってしまいそうですが、テーマに沿うなら前者という判断になるかと思います。

 

 

#4 FIRST LOVE(初恋) ユンギ

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映像に出てくるポイント
・夜の楽器店
・楽器店のガラスを割りピアノを弾く
・口笛が聞こえる
・道路を走る
・車が通り過ぎ、ぶつかる音
・バスタブに水が溢れる
・楽器店につっこむ車
・燃えるピアノ
・口笛が聞こえる

THE NOTESで、夜中の楽器店でジョングクと再会した日記がありました。この楽器店はジョングクと再会した場所と思って良いのかな… その後、車がこの楽器店につっこんでピアノが燃えるのですが、ジョングクの事故と関係しているのかなと初見は思いました。 FIRST LOVE、のことを考えると、ビストリーチェに恋をしたことで自己を自覚したことがテーマになるのですが、それにしてはそのテーマを描くにあたって描写がよく分からなかったです。

 

#5 REFLECTION(反射、内省) ナムジュン

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映像に出てくるポイント
・コンテナ
・赤い空と黒い森の風景(#1)
・アプラクサスに向かうハイタカの絵
・墨を入れる
ハイタカの絵を燃やして酒に入れて飲んで気絶
・電話が切れる音
・ガラスの割れる音で目が覚める
・鏡ばりの空間
・鏡が全部割れる
・花火
・電話の鳴る音
・鎖に巻かれた電話ボックス
・電話ボックスにLIARの文字が浮き上がる

卵がジョングクと混ざるのがよく分からなくて…血汗涙では関係してるのがわかるんですけど、このShort Filmでは何でだろうな〜と思いました。 ガラスが割れる音はユンギと関係してそうだし、電話についてはテヒョンと関係していそうだし。
とにかくナムジュンは鏡がキーワードです…自分を取り巻く環境を直視しようとしていなかったりしているので、鏡=自分を投影するもの=恐怖の対象なのではないかなと思います。 その鏡が割れたことは、ある意味呪縛から解放されたような印象も受けますが、最後は電話ボックスまで走り、電話を取れずに項垂れてしまうのであまり良い状態には見えないです。

 

#6 MAMA ホソク

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映像に出てくるポイント
・寝ている状態から起きる
・薬が大量に入ってくる
・薬を飲む
・目に#4でテヒョンが傷つけていたアプラクサスのグラフィティが映る
・トランス状態になり倒れる
・目を覚まして小窓から外を見ると森林の絵(#2)
・森林の絵を見てからチョコバーを食べて笑う
・森林の絵が聖母像(EVA)に変わる

怖くない?怖くて泣いちゃった!頭おかしくなりそうな動画でした。トランス状態のときに羽根が舞うんですよね。
#2でジミンが枕の羽根を撒き散らかしていましたが、何かリンクしているのかどうか… チョコバーを食べたあとのホソクはどこか安らかな顔をしていました。森林の絵を見たというよりはエヴァを見た印象が強いです。 卵はテヒョンと混ざります
THE NOTESではホソクがテヒョンのことを気にかけていたり大切にしていた描写がありますが、Blood Sweat & Tearsでは相対した立場に見えるので、混ざったのはMVの設定が関係しているのかなという解釈です。

 

#7 AWAKE(呼び起こす、自覚) ソクジン

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ナムジュンのセリフ

鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。
鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという

映像に出てくるポイント

・百合の花を燃やす
・視界がぐるぐる回り苦しむ
・カーテンを開ける
・鎖で閉ざされた棚
・廊下の先に「アプラクサスに向かうハイタカの絵」
・アプラクサス柄の壁紙

流れてくる曲の歌詞

もっと夢を見ていたい それでも離れる時が来てしまったんだ
からだじゅう傷だらけだけど、もがいていたいんだ
多分、僕は 空を飛ぶことはできない
あの花びらたちのように
翼をつけただけじゃダメなんだ
多分、僕は あの空に触れることはできない それでも手を伸ばしていたいんだ
走ってみたいんだ もう少し
この暗闇の中、ただただ歩いて 幸せだった時間たちが僕に訊ねてくる
お前は本当に大丈夫なのかって 僕は答えた
いや、たまらなく怖いよ
それでも六輪の花を手にしっかりと握りしめて
僕は歩いているだけなんだ

ソクジンが理想世界でのループをやめにしようと思っているような歌詞が流れます。ストレートに受けるなら、自己を受け入れて前に進んでいこうともがく様を描いている歌詞です。